大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和42年(行ツ)65号 判決 1968年6月13日

上告人

芝彦一

代理人

三木仙太郎

水野東太郎

海地清幸

森田倩弘

被上告人

右代表者

赤間文三

指定代理人

藤井康夫

ほか二名

代理人

今井文雄

燥野一良

右補助参加人

太田食品株式会社

ほか一三名

以上一四名代理人

梅田鶴吉

復代理人

富永義博

主文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。

原審および当審における訴訟費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人三木仙太郎の上告理由第三点の(リ)および上告代理人水野東太郎外二名の上告理由第四点について。

農地法施行法は、自作農創設特別措置法(以下たんに自創法という。)を廃止するとともに、その二条一項一号において、自創法六条五項の規定による公告のあつた買収計画にかかる農地については、なお以前の例によつてこれを買収する旨を定めている。そして、自創法は、農地の買収は買収計画の承認があれば買収令書を交付してこれを行なう旨(九条一項本文)を規定するにとどまり、農地法一一条のごとく、とくに「遅滞なく」令書を作成・交付すべき旨を命じた規定を設けていないが、自創法のもとにおいても、買収令書の交付または公告は、買収計画の公告・承認後遅滞なく行なわなければならないことは、農地改革の急速な実現を図らんとする同法の目的に徴して、疑いを容れないところであり、しかも、自創法による買収と農地法による買収とでは、買収の要件・対価が異なり、自創法による買収の方が農地法による買収よりも被買収者にとつて不利益であることが明らかである。したがつて、農地法施行法二条一項一号の規定に基づき、自創法の規定による公告のあつた買収計画にかかる農地について従前の例により買収することができるのは、買収計画の公告・承認後遅滞なく買収令書を交付する場合とか、買収計画の公告・承認後遅滞なく買収令書の交付または公告がなされたが、それが法定の要件を欠く違法のものであつたため、当該交付または公告の瑕疵を補正する意味で、後日重ねて買収令書の交付を行なう場合(当裁判所昭和三三年(オ)第三〇八号昭和三六年三月三日第二小法廷判決、裁判集(民事)四九号三一頁参照)に限られ、したがつて、買収計画の公告・承認後遅滞なく買収令書の交付または公告が行なわれた事跡がないにもかかわらず、「買収の時期」より十余年も経過して後に、農地法施行法の右規定に依拠し、あらたに買収令書を交付して買収処分をするがごときことは、とうてい許されないものと解するのが相当である。

いま、原判決の確定した事実によれば、徳島市斉津地区農地委員会は、昭和二五年一〇月一八日、上告人所有にかかる本件農地について、自創法の規定により、買収計画を樹立し、これを公告・縦覧に供し、県農地委員会は右計画を承認し、知事は、買収令書の交付または公告をすることなく(本件において同法九条一項但書による公告がなされていないことは記録上も明らかである)、同年一二月二日を「買収の時期」とする買収の手続をしたが、本訴が提起されるに及んで、昭和三九年六月二三日、農地法施行法二条一項一号の規定に基づき、前記昭和二五年一二月二日を「買収の時期」とする買収令書を上告人に交付した、というのである。

されば、本件買収令書の交付は無効であるというべく、これを有効と認めた原審の判断に農地法施行法二条一項一号の違背ありとする論旨は理由があり、原判決は、その余の上告理由について判断を加えるまでもなく、破棄を免れない。そして、右買収令書の交付によつてなされた買収処分の無効確認を求める本訴請求を認容すべきことは、以上の説示によつて明らかであり、第一審判決は叙上と理由を異にするが、昭和二五年一二月二日を買収の時期とする本件買収処分の無効を確認するものとして、その結論を同じくするから、被上告人のした控訴は、けつきよく理由なきに帰し、これを棄却すべきである。

よつて、行政事件訴訟法、七条、民事訴訟法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松田二郎 入江俊郎 長部謹吾 大隅健一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例